中国

1.概況
近年中国は著しい経済発展を遂げ、世界の工場としてだけではなく、消費市場としても成長している。一方で、工業発展重視の政策により環境負荷が拡大し、全国的に深刻な環境汚染が広がっている。特に水資源については、水源となる湖沼や河川が水質の悪化のために使用できなくなる事例も報告されており、限られた水資源という観点からも、環境保護が国家的優先政策として進められている。

表1. 中国に関する基本情報



面積 約960万平方キロメートル(日本の約25倍)
人口 約13億人
首都 北京
民族 漢民族(総人口の92%)及び55の少数民族
言語 漢語(中国語)
宗教 仏教・イスラム教・キリスト教など

主要産業 繊維、食品、化学原料、機械、非金属鉱物
GDP 24兆9,530億元(2007年)(数値は中国国家統計局修正値)(1ドル=7.3046元(2007年末)換算で約3兆4,000億ドル))
一人当たりGDP 約3,260ドル(2008年、IMF推計値)
経済成長率 9.0%(2008年)(中国国家統計局)
物価上昇率 5.9%(2008年、消費者物価)(中国国家統計局)



我が国の
援助実績
(2007年度まで)
(1)有償資金協力(E/Nベース) 約3兆3,165億円
(2)無償資金協力(E/Nベース) 約1,510億円
(3)技術協力実績(JICAベース) 約1,638億円
主要援助国 日本、ドイツ、英国、フランス、豪州など

(出所:外務省ウェブサイト)

 

2.中国の水資源
中国は地域による水資源賦存量の差が大きい。特に北京のように水源が乏しい地域にある都市では、経済発展と共に一人当たりの生活用水量が増加しているため、水不足の状況にある。また、大河川流域の都市の発展と共に、河川からの取水量が増加したために河川の断水も生じている。一方で、中国の南部では降水量も豊富で十分な水量が存在している。そのため、地域間の水資源量の差を是正するために南水北調事業のような大型の公共事業が行われている。

水不足の地域では再生水の利用が重要視されている。再生水は主に工業用冷却水や生産用水に使用されているが、他に都市雑用水(トイレや車の洗浄水、緑化用水)、農業灌漑用水、景観水環境の補充水にも使用されている。

3.都市化と下水道整備*1
近年の急速な経済発展により都市化が進み、「城市」に区分される自治体の数は増加し続けている。それに伴い都市人口の数も増加し、総人口に占める都市人口の比率は、1993年の28%から2004年には41.7%に増加している*2。都市化は経済成長の原動力であるが、住環境の質の向上が伴わない都市化は、スラム化や環境破壊といったマイナス面が大きい。このため中国政府は都市化の推進に慎重であったが、近年になって経済成長のためではなく、過剰労働力や所得の伸び悩みなどの農村問題の解決方法として都市化を重点政策課題とするようになった。

都市インフラ整備投資は都市人口の増加に伴い、1990年代に入って急速に進んだ。セクター別の投資額の割合では、道路投資が4割程度と最も大きく、下水処理場や下水管網の整備を含む「排水」の項目については95年以降全体投資額の1割弱を占めている*3。排水に関する投資額は1995年の48億元から2007年には410億元まで増加している。下水道整備向けの投資が増加した背景には、前述のように都市化に伴う生活排水の急増がある。下水道整備には水環境の改善だけでなく、処理水の再利用というメリットもある。第11次5ヵ年計画では整備率の目標として都市部の下水道人口普及率45%(人口50万人以上の都市では60%)が掲げられ、全国的に下水処理場の建設と排水管網の整備が進んでいる。

下水処理場が整備されたことによって、特に大規模な都市においては水環境が抜本的に改善された例が少なくない。下水処理場での集中処理率をみると、超大都市(人口200万人以上)、特大都市(人口100万~200万人)とそれ以下の規模の都市の処理率には大きな開きがある。処理場を有していない中小規模の都市も多い。

都市下水とは都市部において下水システムで収集されている生活系排水と工業排水の混合汚水の総称である。都市下水処理施設の整備は進められているが、依然として未処理のまま放流されている都市下水は環境汚染の大きな要因になっている。しかし、近年では工業排水の排出量は、産業構造の調整と節水対策の効果により、工業発展しているにもかかわらず、1997年から横ばいの傾向にある。一方で、生活排水の排出量は1999年に工業排水を上回り、2006年には297.5億tに達した。

表2 都市の概況比較(表中括弧内はデータの年)
北京市 上海市 広州市 天津市 重慶市
都市部人口(万人) 1,633
(2007年)
1,888
(2008年)
975
(2006年)
1,043
(2006年)
2,839
(2008年)
面積(km2) 16,411 6,341 7,434 11,760 82,400
人口密度(人/km2) 937 2,978 1,312 886.9 344.5

(出所:各市政府ウェブサイト、統計局ウェブサイトより作成)

 

4.上下水道に係る行政
下水道は都市インフラの一つとして中央政府では建設部、地方政府では建設委員会・庁・局によって所管されている。日常的に監督を行っているのは地方政府である。
地方政府においては、省のレベルでは水利庁が設置され、各市・県には水務局が設置されている。水務局は市・県内の水行政全般に権限を持ち、水資源の管理から下水道や汚染処理事業の予算編成に関わっている。

5.上下水道料金
料金体系は都市によって異なり、使用水量に比例する場合と、日本と同様に一定水量ごとに逓増する場合がある。また、料金は各地の物価局によって決定されている。表3は各都市の水道料金と汚水処理費を比較したものである。

中華人民共和国価格法(1997年)では、公益事業の利用料金は、受益者の意見を聴取したうえで決定することが規定されており、下水道料金の値上げにあたっても、PR等により住民の理解を十分に得ることや低所得者への優遇措置を充実が必要不可欠である。これまで国や省は下水道料金の受益者負担の徹底を目指して通達を出してきたが、多くの都市ではフルコストリカバリーの水準に達していないのが現状である*4。また、上水道についても水利部は給配水に要する費用を全て水道料金に反映させるという方針を示しているが、実際に全ての受水者に料金を負担する所得があるかは疑問視されている*5

図2は上下水処理施設に関するデータベースであるIB-NETのデータを元に、都市部における上下水道の運営コストを都市人口の規模別に比較したもので。比較によると、近年は人口が大きい都市ほど運営コストが上昇する傾向にあるといえる*6

表3 都市間の水道料金比較(単位:/元)
北京市 重慶市 天津市 上海市(市北)
水道料金 2.80 2.10 3.08 1.33
汚水処理費 0.90 1.00 0.82 1.08
合計 3.70 3.10 3.90 2.41
再生水価格 1.00 N/A 1.2 N/A
広州市 成都市 昆明市 南京市
水道料金 1.32 1.35 2.45 1.50
汚水処理費 0.90 0.8 1.00 1.30
合計 2.22 2.15 3.45 2.80
再生水価格 N/A N/A 1.2 N/A

(出所:水网(www.h2o-china.com/)および各市水道会社ウェブサイトを元に作成)

図1 都市人口別の上下水道の運営コストの推移(出典:IB-NETを元に作成)

 

6.日本の対中国ODA
中国は日本にとって最大のODA供与国であり、有償・無償を含めて多くの開発援助が行われてきた。ODAは、かつては沿海部のインフラ整備に重点がおかれていたが、2001年10月に策定された「対中国経済協力計画」では環境保全、内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、制度づくり、技術移転などを中心とする分野をより重視すること、日中間の相互理解促進に資するよう一層の努力を払うこと等に重点を置くこととしている。表4に実施案件の一例を示す。

なお、中国の経済発展による資金調達力の向上に伴い、対中ODAの大部分を占めていた円借款については中国の経済・社会発展の象徴である北京オリンピック前までに新規供与を終了することで合意し、平成19年度の案件が最後の供与となっている。

表4 我が国の対中ODA案件の一例
平成19年度 青海省生態環境整備事業 退化草地改善、砂漠化防止、水土保全対策
平成19年度 新彊ウイグル自治区地方都市環境整備事業(Ⅱ) 新彊ウイグル自治区阿勒泰(アルタイ)市及び阿図什(アトシュ)市における下水処理施設、上水施設の整備とその他エネルギー事業。また、日本での現地職員の研修。
平成19年度 河南省南陽市環境整備事業 南陽市において、下水道施設、ガス供給施設の整備に係る資機材調達及び土木工事を行うと共に、研修を実施する。
平成18年度 安徽省地方都市水環境整備事業 下水道施設及び上水道施設の整備に必要な資機材の調達。

(出所:外務省ウェブサイト)

 

7.中国で活動する外国企業*7
中国では、上下水道事業の拡大に必要な投資を呼び込むために、民間企業の参入が認められている。中国での事業参加はBOT契約等の形態があり、処理場の運営は単独で行うことができるが、上下水道管網の敷設、経営には中国政府を大株主とする株式会社形式で運営することが求められる。中国で事業を行っている主な企業としては、外資系ではフランスのスエズやヴェオリアが代表的である。これらの企業は主に、各都市とのBOT契約を結び、浄水場や下水処理場の建設、運営を行っている。

[参考資料一覧]
*1森昌寿(2008)『中国の環境政策―現状分析・定量評価・環境円借款』京都大学学術出版会
*2黄霞(2007)「中国における都市下水処の現状と動向」用水と廃水Vol.49 No.10
*3建設部綜合財務司(2008)『中国城市建設統計年鑑 2007』中国建筑工業
*4*1に同じ。
*5JICA(2006)『中華人民共和国水利権制度整備最終報告書』
*6International Benchmarking Network for Water and Sanitation Utilities (IB-NET) http://www.ib-net.org/IBNetProduction/
*7氏岡庸士(2004)「水道ビジネスの新世紀 : 世界の水道事業民営化のながれ」水道産業新聞社