インド

1.概況
近年IT産業を強みとして高い経済成長を遂げているインドは、中国に次いで世界第2位の人口を有し、人口400万人以上の都市を4つ抱えている。人口集中が激しい都市部ではインフラ整備の遅れが問題となっている。モンスーン気候に属し、年間降水量の80%は6月から8月にかけての雨季に集中する。 表1に同国の基礎情報を示す。

表1. インドに関する基礎情報



面積 3,287,263 km²(パキスタン、中国との係争地を含む)
人口 10億2,702万人(2001年国勢調査)
人口増加率1.95%(年平均:インド政府資料)
首都 ニューデリー(New Delhi)
民族 インド・アーリヤ族、ドラビダ族、モンゴロイド族等
言語 連邦公用語はヒンディー語、他に憲法で公認されている州の言語が21
宗教 ヒンドゥー教徒80.5%、イスラム教徒13.4%、キリスト教徒2.3%、シク教徒1.9%、 仏教徒0.8%、ジャイナ教徒0.4%(2001年国勢調査)
識字率 64.8%(2001年国勢調査)

主要産業 農業、工業、鉱業、IT産業
GDP 10,661億ドル(2007年度:インド政府資料)
一人当たりGDP 822.7ドル(2008年度(暫定値):インド政府資料)
経済成長率 6.7%(2008年度(暫定値):インド政府資料)
物価上昇率 6.2%(消費者物価指数)、4.4%(卸売物価指数)
(2007年度平均:インド政府資料より算出)



我が国の
援助実績
(1)有償資金協力(E/Nベース) 2,360.47億円(2008年度)
(2)無償資金協力(E/Nベース) 4.24億円(2008年度)
(3)技術協力実績(JICAベース) 集計中(2008年度)
主要援助国 (1)日本 (2)英国 (3)ドイツ (4)米国 (インド政府資料)

(出所:外務省ウェブサイト)

 

2.水資源の概況
インドの河川は飲料用水、生活用水、灌漑用水、工業用水、レクリエーション、沐浴といった多様な機能を果たしているが、工業発展や人口増加により汚染が進んでいるため、政府は第10次5ヵ年計画(2002~2007)で河川の浄化を重点目標に掲げ、主要な河川の浄化を実施するものとした。表2は同国の水資源の利用状況を示したものである。農業部門での水の使用が大きな割合を占めている。

表2 水資源に関するデータ(単位:1兆㎥/年)
インド 日本(参考)
農業用途での水利用量(2000) 558 55.2
都市(Municipal)における水利用量 (2000) 52.2 17.4
工業用途での水利用量(2000) 35.2 15.8
合計水利用量(2000) 646 88.4
1人あたりの国内再生可能な水資源量(2007) 1094(㎥/人/年) 3361(㎥/人/年)

(出典:AQUASTAT  http://www.fao.org/nr/water/aquastat/main/index.stm)

 

3.下水道整備に係る背景
インドでは、人口増加や経済発展に伴う上水需要の増加に対して、施設整備が追いつかず供給不足が深刻化している。また水中からのフッ素、砒素等の有害物質検出等の問題を招いている他、都市部への急激な人口流入や工業化により、下水処理能力を超過した汚水が排出されており、地域住民の衛生、生活環境が脅かされている。下水道事業の運営・維持管理面についても、水質、無収水、料金設定等、技術的・財務的な課題を抱えている。

インド政府は、第10次5ヶ年計画(2002年4月~2007年3月)において、十分かつ安全な飲料水の全国民への供給、主要な汚染河川の浄化及びその流域環境の改善を提唱している。これを踏まえ、水資源省は国家水政策(2002年4月)の中で、水資源配分の優先順位を上水・灌漑・水力発電の順番に置くことを示し、環境森林省は国家河川保全計画に基づく下水道整備の取組を行っている。また、第11次5カ年計画(2007年4月~2012年3月)においては、国家都市再生ミッションの下での上下水道・衛生施設の整備の推進が言及されている*1

インド政府は第11次5ヵ年計画において、2011/12年までに都市部全人口への上水供給及び下水・衛生施設の提供を政策目標として掲げ、各州・自治体に対し包括的な都市開発計画を策定し、国家都市再生ミッション(Jawaharla Nehru National Urban Renewal Mission、以下JNNURM)等による支援を活用しつつ目標の達成を図るよう求めている*2

河川・湖沼の水質汚濁については、主に自然浄化能力を超える量の未処理排水の流入が原因であるところ、これまで国家河川保全計画(NRCP)及び国家湖沼保全計画(NLCP)を策定し、下水処理場の建設等の対策を進めてきた。さらに、第11次5ヵ年計画では、同計画終了時点の2011/12年までに全ての都市排水を処理した上で河川に放流することや、全ての主要河川の水質を指定利用水質まで改善することを政策目標としている*3

インドでは近年、Urban Renewal Mission という制度変更が行われた。これは、今まで州政府が行っていた上下水道整備を、全国200 程度の市に権限委譲し、市に整備の財源調達、計画、施工、管理等を任せるものである。市から計画委員会に計画を提出し、基準を満たすものに補助金を交付するもので、相当の金額の予算枠が用意されている。制度の施行に関しては市政府のキャパシティに限界があるため、制度が機能していないという指摘もある*4

4.上下水道の普及状況
表3に、世界銀行が運営するデータベースIB-NETに報告された上下水道のカバー率(全国平均値)を示す。表3に示した数字以外にも、英ABS社の報告には上水道で50~80%、下水道では35~75%という数字が示されている*5。しかし、上水道については普及率が高い都市であっても、24時間給水が行われているとは限らない。

また、JICAによるゴア州での下水道強化プロジェクトの報告によると、地域によって人口の偏りがあり、下水道整備に適した人口密度に達しているのは人口の集中が見られる都市に限られるため、地区全体に下水道を張り巡らせる必要はなく、未普及地域の住民は浄化槽などの何らかのオンサイト処理を利用しているとされている*6

表3 インドにおける都市の上下水道のカバー率平均
(上水・下水のサービス供給対象地域の人口あたりのカバー率)
2003 2004 2005 2006 2007
給水カバー率(%) 60 59 65 69 69
下水道カバー率(%) N/A 42 40 33 33

(出典:IB-NET*7

 

5.水道事業にかかる行政組織
インドの下水道事業にかかわる主要な省庁には、環境森林省(Ministry of Environment and Forests:MOEF)、都市開発省(Ministry of Urban Development:MOUD)がある。

環境森林省は環境保護法に記される自然環境保護及び生活環境の保全・改善に対する権限をもつ。また、管轄下に国家河川保全局(National River Conservation Directorate:NRCD)と中央公害対策委員会(Central Pollution Control Board : CPCB)を持ち、NRCDは主要な河川・湖沼環境保全を目的とした下水道整備を促進している。CPCBは水質汚濁防止法に基づいて事業場の排水規制・管理・評価を実施している*8また、国内の下水処理場についての情報をまとめた「Status of Sewerage Treatment in India」を発行している。

一方で、都市開発省は都市環境整備を目的に下水道事業を行っている。同省は、1993年~2005年までの間、大都市に対する事業としてムンバイ、コルタカなどの都市においてインフラ整備を補助する事業を行っており、2005年度以降はJNNURMに吸収され、2005年度から7年間で約1.5兆円の予算枠が確保されている。また、同様のインフラ整備を目的とした事業としては、UIDSSMT(Urban Infrastructure Development Scheme for Small and Medium Towns)があり、上下水道整備を含む総合的な整備事業が行われている。なお、都市開発省内にはCPHEEO(Central Public Health and Environment Engineering Organization)という技術部署があり、上下水道技術の指針等を作成して地方自治体の事業実施を支援している。この指針は環境森林省の下水道事業でも活用されている*9

水道事業を運営する事業体は州によって異なり、例えば、水道料金の決定権を州が持つか、他の機関が持つかも州によって異なる。次の項でゴア州を例に説明する。

6.ゴア州の上下水道にかかる法制、運営組織の紹介
インドでは、上下水道の運営にかかるさまざまな権限の所在は州によって異なる。ここでは、JICAが行ったゴア州での調査を元に、同州の運営体制を紹介する。

ゴア州では州政府傘下の公共事業局(Public Works Department、以下PWD)が上下水道施設の運営管理、下水道拡張の管轄をしている。PWDは上下水道の整備、橋梁を含む道路の整備、公共施設の設計建築と3つの担当分野に分かれており、上下水道分野はPublic Health Engineering Wingが担当している。PWDは州都の本部以外に本部と主要都市Margaoにおかれている9つのCircleと呼ばれる支部を持っている。実際に施設の管理を行うのは、Circleの下の25のDivision Office、また、さらに地域を細分化した101のSub-Division Officeなどの現地事務所である。また、PWD以外にも上下水道に関係する機関として以下が挙げられている。

  1. Water Resource Department
  2. Department of Science, Technology and Environment
  3. Directorate of Panchayats
  4. District Rural Development Agency
  5. Directorate of Municipal Administration
  6. Goa State Pollution Board
  7. Directorate of Health Service
  8. Sewerage Infrastructure Development Coporation

インド政府は国の開発計画を策定しており、それに応じてゴア州も州内の開発計画を策定する*10。中央政府は、安全な飲料水と衛生施設の供給は州政府の課題としつつ、地方、都市部の水道整備に財政的、技術的補助を行い続けている。

ゴア州における上下水道に関する法律は、調査が行われた2004年9月時点において、上水道に対する水道法(Water Supply Bye-Law)である。下水道法については、PWD内部での検討が行われており、同年度中に議会で可決される見込であった。

*1JBIC事業事前評価表(2008)「タミルナドゥ州都市インフラ整備事業」
*222001年国勢調査による人口1万人以上の都市と他の重要都市についてのインフラ整備を行う事業。
*3外務省(2009年6月)「対インド事業展開計画」
*4国土交通省「インドにおける国土計画の策定状況」p42~43
*5ABS Energy Research「Water and Waste Utilities of the World Ed.7-2006」 p.259~265 
*6JICA(2006年3月)「インド国ゴア州上下水道強化計画事前調査報告書」
*7International Benchmarking Network for Water and Sanitation Utilities (IB-NET)のOnline Database参照
http://www.ib-net.org/IBNetProduction/
ここでの普及率の定義は水道公社・下水道公社のサービス供給エリアの中に、直接上水・下水サービスに接続できる人の割合を意味する。
*8CPCBは環境関連のデータを収集しており、ウェブサイトではインド各地の水質や大気質のデータを閲覧することができる。http://www.cpcb.nic.in/
*9岩崎旬 「インド水入門 水環境への負荷と対策」 用水と廃水Vol49 No.8(2007)
*10最近の報告としては、ゴア州第10次5カ年計画(2002~2007)が作成された。